奈良少年刑務所
奈良少年刑務所の更正教育の一環である「社会性涵養プログラム」から生まれた作品を編集した詩集です。
詩などほとんど書いたことのない彼らには、うまく書こうという作為もありません。
だからこそうまれる、宝石のような言葉たち。当たり前の感情を、当たり前に表現できる。
受けとめてくれる誰かがいる。それこそが更正の第一歩です。
詩集 「空が青いから白を選んだのです」寮 美千子著より(新潮社)
「くも」
空が青いから白を選んだのです
A君は、普段はあまりものを言わない子でした。そんなA君が、
この詩を朗読したとたん、堰を切ったように語り出したのです。
「今年でお母さんの七回忌です。おかああさんは病院で
『つらいことがあったら、空を見て。そこに私がいるから』
とぼくにいってくれました。それが最(さい)期(ご)の言葉でした。
おとうさんは、体の弱いおかあさんをいつも殴(なぐ)っていた。
ぼく、小さかったから、何もできなくて・・・・・」
A君がそう言うと、教室の仲間たちが手を挙げ、次々に語り出しました。
「この詩を書いたことが、A君の親孝行やと思いました」
「A君のおかあさんは、真っ白でふわふわなんやと思いました」
「ぼくは、おかあさんを知りません。でもこの詩を読んで、
空を見たら、ぼくもおかあさんに会えるような気がしました」
と言った子は、そのままおいおいと泣き出しました。
自分の詩が、みんなに届き、心を揺さぶったことを感じたA君。
いつにないはればれとした表情をしていました。
たった一行に込められた思いの深さ。そこからつながる心の輪。
「詩」によって開かれた心の扉に、目を見開かれる思いがしました。